「そんなインデントで大丈夫か?」「大丈夫問題ない」

あれはまだStruts1.0が最新のFrameworkだった頃の話だったか…
僕はvimjavaのソースを書き、antなど無いからmakeでビルドしていた。1ファイルコンパイルする毎にJVMが立ち上がるため、コーヒーブレイクを入れる、そんな牧歌的な時代だった。

彼は真のアーティストだった。僕がts=4でインデントしているのを内心笑っていたに違いない。彼は僕が見たことも無い、最新式のJBuilderを使っていた。
彼のインデントは独創的だった。スペースバーを長押しする事で、誰にも真似出来ないインデントアートを生み出していく。何重にも織り込まれているif文が、論理的なネストとは相入れないインデントをなしていた。凡人である僕がその美しさを理解するには、おそらく後1世紀は必要だろう。
オートインデントを頑なに拒否する、彼のそんなストイックなところが僕には眩しかった。

そんな彼には当たりだが、try節も素晴らしいネストを幾重にも織りなし、どこで例外が発生しようが直ちにcatch出来る、まるで勧善懲悪の様式美を持つ映画を見てるようだった。
時代が時代なら、コードレビューと言う名の悪魔狩りによって、彼のソースは闇に葬り去られていたに違いない。彼と同じ時代に生まれた事を感謝せねばなるまい。

そんな彼の自慢は、3kステップのクラスを一人で作り上げた事だった。僕ではもっと細かな、複数のクラスに分かれてしまっていたに違いない。彼の前では4人のアミーゴたちですら、デザインパターンなどと言う凡人のためのカタログなど、無意味である事を思い知らされたことだろう。

・・・あれから何年が過ぎただろう。彼はふたたび、僕のプロジェクトに参加する事を望んだ。何と言うことだろう!僕は緊張しながら、彼に話を聞く事にした。
彼はデザインパターンを勉強していると言う。まさか!彼にはそんな既製品のようなプログラムは似つかわしくない。
そんな僕の心配は杞憂だった。どんなパターンを勉強しているのか尋ねた僕に彼はこう言い放った。
「パターン名とかそう言うのはちょっと…セッターとかゲッターとか、そう言うのでしょう?」

やはり彼はアーティストだった。
すっかり感心した僕は、思い切って聞いてみた。
「あの時より成長したところを教えてもらえますか?」
一呼吸おいた後、彼はゆっくり口を開いた。

「インデント出来るようになりました。」